『紙の動物園』 ケン・リュウ
紙の動物園
著者:ケン・リュウ
編・訳者:古沢嘉通
発行所:早川書房
2015年4月25日 発行
衝撃的な短編集だった。勧められて表題作「紙の動物園」をひとまず読んでみたら、とてつもなかった。短い作品の中に時間的にも空間的にも奥行きが広くあって、読後はこんなところまで連れてこられたのか、と思わず泣いた。
最初はうまいファンタジー物語かと思ったのに、そんなもんじゃなかった。
本書は中国人作家が英語で書いた作品で、ファンタジーとSFの短編を集めたもののようだ。表題作「紙の動物園」が余りにも優れていたので、ほかの作品は蛇足かなあと失礼ながら思ってしまったのだが、どの作品も趣向が異なっていて面白い。日本や中国、アメリカのエキゾチックな香りづけも楽しめる。科学的な言葉やプログラミング用語などを多用する作品もあって、そうゆうのが苦手な人は表題作だけでも読んでもらえたらいいなあと思う。
ほかに気に入った短編をあげると、「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」という作品が、時の流れを壮大に表してて好みだった。すべての人間がコンピュータに住む時代の話で、多次元でできた人々が関数の家に住んでいる。人が肉体を持っていた最後の世代の、スキャンされてプロセッサーに入った母が娘と45年の旅に出る。それは1日のようで。
<収録作品>
紙の動物園
月へ
結縄
太平洋横断海底トンネル小史
選抜宇宙種族の本づくり習性
心智五行
どこかまったく別な場所でトナカイの大群が
円弧
波
1ビットのエラー
愛のアルゴリズム
文字占い師
よい狩りを
読んでて思いついた作品のお勧め
○『停電の夜に』 ジュンパ・ラヒリ
インド系アメリカ人作家の短編集で、異国情緒がしっとり静かに流れていくような空気感を楽しめる。